雀巽の日記帳

雀巽が綴る日常の記録

「イメージで比べてわかる 前置詞使い分けBOOK」が網羅性と簡潔性のバランスが取れた良書だった

「イメージで比べてわかる 前置詞使い分けBOOK」を読みました。

今まで前置詞関連の本は何冊か読んだのですが、このが一番網羅性と簡潔性のバランスに優れているなと思いました*1

前置詞を把握するにはイメージが重要なのは周知の事実であるため、イメージやイラストにフォーカスしている点自体は正直、特に真新しくはないです。例えば「道を歩けば前置詞がわかる」も前置詞の基本的なイメージを学べる良書です。

necojackarc.hatenablog.com

「イメージで比べてわかる 前置詞使い分けBOOK」を良書にしている一番の点は、網羅性と簡潔性のバランスかなと思います。

簡潔性にフォーカスしすぎると、網羅性が下がり、「このあたりの使い方はまだしっくりこないなあ」ということが起きますし、網羅性にフォーカスしすぎると、重厚な用例辞典になってしまい、読み物として読むのは正直厳しいです。英語を学問として学んでいる方にとっては、素晴らしい読み物になると思いますが……。

自分が目指すべき状態は前置詞をある程度自在に使いこなせるなり、今後出会う初見の用法でも自分なりに理解して落とし込めるというものでした。

前置詞の選択で迷うことはかなり減ってきてはいるのですが、どうしてもまだ腑に落ちてない部分があり、いくつか文法書を読んでも自分なりに納得のいく説明が見つけられない、ということが起きていました。正直それでも日常生活で問題は起きてなかったのですが(日常会話で使うような表現だと大体コロケーションを覚えてる)、それでも気持ち悪さが残っており「そろそろ辞典級の本に手を出すか……それとも納得感を得るのは諦めるか……」という状態でした。これまでの英語学習では何とかすべてを自分なりに納得して進んできたので、後者を選択したくないな~というところで、手を出したのがこの本でした。

正直あまり期待してなかったのですが、サンプルを読んでみて「もしかしたら!」と思い通読してみたところ、これがかなりの良書でした!まさに「前置詞をある程度自在に使いこなせるなり、今後出会う初見の用法でも自分なりに理解して落とし込める」状態に進むためにちょうど良い網羅性、そして通読が苦でない程度の簡潔性でした!

せっかくなので、まだ腑に落ちてなかった部分の具体例を2点だけ挙げておきます。

一つ目はグループ分けで使われる by の用法です。SQL などでも無限に見てるので、"by 無冠詞の名詞" で、その名詞によるグルーピングを表現できるということは当然知っては居ました。ただ、by という前置詞のイメージ(「傍」がコアイメージだと思ってた。一応間違ってはなかった)から、どうしてこの「区分け」の意味が出るのかわかっていませんでした。

この本の説明によると「by のコアイメージは傍は傍でも、少し隔たりのある傍」だそうです。この「少しの隔たり」感が、差分や区分けの用法へと繋がっているとのことでした。そのため by country が「国別では」と、グルーピングでの意味を持ちます。*2

そしてこの隔たり感が "stand by me" と "stand with me" の微妙なニュアンスの違いも生んでる、というのも面白かったです。前者「(自分で頑張るので)傍で見守ってて」というニュアンス、後者は「(一人だとつらいので)一緒に居て」というニュアンスだそうです。

二つ目は「に関して」の意味で使われる of です。滅茶苦茶よく使われるあの of の用法です。動詞と使われる用法だと know of, hear of, think of, inform ... of, remind ... of, 名詞と一緒だと knowledge of, thought of, impression of など、いろいろあります。そしてこれの何に納得していなかったかというと、「に関して」というニュアンスで of を取らない単語が割とあるという点です。*3

例えば、comment や suggestion です。これらは基本的に「に関して」の意味での of を取りません。正直 thought of が OK なら comment of も OK じゃないの……?と混乱していました。 Of のコアイメージが「分離・帰属」であることは有名だと思いますが、よくよく考えると、なぜ「分離・帰属」のコアイメージから「に関して」の意味になるのかと、ますます混乱しそうになります。

この本の説明によると「of には全体から一部を引き抜いたようなセンスがあり、それが記憶や知識などから一部を引き抜いたようなイメージにつながる」とのことでした。

な、なるほどー!!確かにこういう意味で of を取るのは「記憶・知識・感情・思い」に関することばかりです!おそらく自分のなかに数ある記憶の中でそれに関するものを分離して引き抜いたイメージがこの of につながってるということですね!そして確かに、comment や suggestion は既に自分の中の記憶や知識ではなく、それらを元に生み出された何か、と捉えることができそうです。

もちろんこれだけで説明できない部分はありとは思いますが、このあたりのことの大部分はこの「脳や心から一部を引き抜いたイメージによる of」で説明できる、少なくとも納得感は得られる、と思いました。

このような感じで、結構詳細に踏み込み、網羅性が高いにも関わらず、それでいて簡潔にまとまっており読みやすい、という良書でした。

*1:読んだタイミングの英語力の差が非常に大きいことによる感度の差が原因でこう感じた可能性は正直否定できません

*2:ちなみにこの意味での by が無冠詞なのは、具体的な国を示しているのではなく、グルーピングに用いる概念としての国を指しているからかなと思います。具体的な国を入れてしまうと、「その国によって」という動作主の by の用法に見える、というのもあるかもしれません。ちなみにさらにわき道にそれますが、キロ単位での意味の時は定冠詞が付き by the kilo になります。これが概念やシステムとしてのキロではなく、具体的な差分を表す単位としてキロが使われているからだと思います。

*3:of vs about のクラシックな問題ももちろんありますが、これはクラシックな問題であるがゆえすでに自分なりに解消済み。